レポート

千葉大学 Chiba University 大学のリソースを活用して理系グローバル人材を高大連携で積極的に育成

1990年代から高大接続事業に力を入れてきた千葉大学は、AP事業の採択を受けた「次世代才能スキップアップ」プログラムを通じて、将来、研究者をめざす高校生に、理系グローバル人材としての資質を身につける教育を提供している。基礎教養の講座から個別の課題研究支援、英語による発表の機会創出など、プログラムは多岐に渡り、近年は千葉県内だけでなく、関東近郊の多くの高校から参加者を集めている。

大学の専門性と国際性に触れられるプログラム

1990年代から、高大接続事業に積極的に取り組み、優れた理系人材の育成に尽力してきた千葉大学。他大学に先駆け、1998年から先進科学プログラム(17才飛び入学)を実施するなど、新しい人材育成の流れをつくってきた。

しかし、先進的な高大接続事業を加速させるには、学内外に向けたさらなる認知が必要だった。さらに、高大接続事業をAO・推薦入試とうまくつなげられていないという課題もあった。こうした課題を解決するため、これまでの取り組みを体系化したのが、AP事業の採択を受けた「次世代才能スキップアップ」プログラムである。

8割の講義出席で修了証入学後の単位認定も

基礎力養成講座

プログラムの最初のステップは、千葉県内および近隣の高校1・2年生を対象にした「基礎力養成講座」。これは、高校生が千葉大学のキャンパスを訪れ、大学の施設を使って、実験講座や講義を受講するもの。「健康・医療」「テクノロジー」「総合科学」と「園芸学」の計4コースがあり、各コースで6〜8回程度の講座を開催している。これに加えて、不定期開催の「特別講座」がある。

通年で受講する「コース生」と関心のある講座のみ受講する「オープン生」として参加が可能で、「コース生」は、選択したコースの講座に8割以上出席すると修了証が授与される。千葉大学に入学し、所定の手続きを経ると、自由選択科目として単位認定も可能になる。大学入学前に、幅広い知識と実験スキル、科学的思考力などを醸成するのが狙いだ。AP事業推進責任者で、アジア・アセアン教育研究センター長でもある野村純教授はこう語る。

「『基礎力養成講座』は、学内の幅広い分野の教員に協力してもらい、高校生にもわかる基礎教養を身につけてもらうように設計しています。2018年度は、千葉県内外の延べ881名の生徒が参加し、そのうち87名に修了証を授与しました。AP事業採択によって、こうした高大接続の取り組みが、全学的に広がっているのを実感します」

大学教員がマンツーマンで高校生の課題研究を指導

G-スキッパー養成コース

千葉大学に関心を持った高校生が参加できる次のステップが、大学で専門的な課題研究に取り組む「G-スキッパー養成コース」。「基礎力養成講座」受講生の中から希望者を募り、面接のうえ、年間最大15名が選抜される。

選抜にあたっては、高校生自身が研究テーマを決め、そのテーマを専門分野とする大学教員との面接で、やりたいことをアピールする。1回目の面接で教員が読むべき文献や調べ方などを示し、それを実行して再度面接を申し込んできた高校生が合格となる。課題を何度も出し直して、やる気を試すこともあるという。

研究では、教員が1対1で指導し、大学生や大学院生のチューターもつく。受講生は週末や長期休業中に大学の研究室を訪れ、実験などを行い、1年〜2年かけて研究を進める。そして、研究を終えた年度末の「国際研究発表会」で、研究の成果を英語で発表するのが最終ステップとなる。

「受講生には、実験データをおおまかに捉える生徒もいれば、深く読み込む生徒もいて、アプローチの違いによって、解析結果は変わります。ここで大切なのは、『なぜ、解析結果が異なるのか』を、各自の考えを持って話し合うこと。高校生は、それまでの学習経験から、問題の答えや結論は1つだと思いがちですが、実はさまざまな答えや結論の合意点を話し合いで見いだすのが『大学の学び』です。それを高校生のうちに実感できれば、大学での研究も円滑に進められると考えています」(教育学部 飯塚正明教授)

「一度面接で話した研究テーマを自分なりに掘り下げて、再度面接を申し込んでくる高校生は、粘り強く研究に取り組む傾向があります。ここから学びは始まっています。研究から発表までのプロセスの中で、研究に向かう姿勢、論理的な思考、他者に成果を伝える技術など、科学者としての基本を身につけてほしいですね」(教育学部 加藤徹也教授)

ASEANの留学生と交流する場を提供

グローバル教育支援も千葉大学が取り組むAP事業の重要なキーワードだ。高校生も参加する「国際研究発表会」に加え、「高校への留学生派遣」というユニークなプログラムを実施し、スーパーグローバル大学としての役割を果たしている。

国際研究発表会

年3回開催している「国際研究発表会」では、「G-スキッパー養成コース」に参加した高校生をはじめとする関東近郊の高校生が参加し、ASEAN諸国の高校・大学職員および留学生の前で、ポスターセッションやプレゼンテーションを行う。用いる言語は、もちろんすべて英語。自然科学だけでなく、社会科学の内容も発表できる場となっている。次世代才能支援室長の工藤一浩教授は、国際研究発表会の規模拡大に手応えを感じている。

「2018年度第3回国際研究発表会では、高校生182名に加え、高校教員60名、ASEANか国から教員26名、留学生39名が参加し、活発なコミュニケーションが行われました。高校の先生からの注目度も高く、『ぜひうちも参加したい』『もっとこうしてほしい』という要望も寄せられています。『全員留学』を掲げるスーパーグローバル大学として、千葉大学全体の国際教育をPRする機会にもなっています」

高校への留学生派遣

千葉大学に在籍する留学生を高校に派遣し、科学教育・文化交流を行う「高校への留学生派遣」にも注目が集まる。

内容は留学生や高校生が英語で行う研究・文化発表のほか、研究経験のある留学生が高校生に英語による発表のアドバイスを行う課題研究支援など、高校側の要望を取り入れながら共同でプログラムをつくり上げていく。派遣の際は、千葉大学の学生がアンバサダーとして同行し、留学生と高校生の交流を支援する。

千葉県内外の高校と連携し世界へ飛び出す力を養う


左から教育学部副学部長 加藤徹也教授(理学博士)、次世代才能支援室長 工藤一浩教授(工学博士)、AP事業推進責任者/アジア・アセアン教育研究センター長野村純教授(医学博士)、教育学部 飯塚正明教授(工学博士)

AP事業採択によって、高大接続の取り組みは拡大し、千葉県内だけでなく、関東近郊の多くの高校と連携が取れるようになった。高校からの注目度も高く、「基礎力養成講座」は、広報をしなくても定員以上の生徒が集まる状態だという。

「SSHやSGHの指定校以外でも大学と連携して探究活動を深めたいという高校に、ぜひ千葉大学を利用してほしいと考えています。大学が培ってきた教育リソースをフル活用して、若者の未来に向けた夢を支援していきたいと考えています」(野村教授)

一方で、学内の人的リソースやコストの確保という課題もある。今後、「基礎力養成講座」については、実験・実習の実費程度を負担してもらうことも検討中だ。また、高大接続事業と入試制度をどう連携させていくかも重要な課題。現在、他学部に先駆けて園芸学部において、「次世代才能スキップアップ」プログラム修了生等に出願資格を与えるAO入試がスタートしている。

「本事業で高校時代から大学の研究に触れることで、世界に飛び出していける力を養っていきたいと考えています。そして、そうした力を持つ高校生に千葉大学が選ばれるよう、今後も教育力の向上と入試制度の整備を図っていきたいと思います」(工藤教授)

STUDENT’S VOICE 1
PROFILE
工学部 総合工学科 1年
佐藤 夏帆さん千葉県立東葛飾高等学校出身

「環境と共生する化学」という将来めざす学びの分野と出合えた

高校のプログラムで、千葉大学を見学に来たときに、「次世代才能スキップアップ」プログラムのことを知りました。もともと高校で理科部に所属していた私は、迷わず参加を決意。「基礎力養成講座」では、テクノロジーコースで6講座を受講しました。印象に残っているのは、「身の回りの不思議を実験を通して探求しよう」という講座。ガラスをつくる実験などを通して、大学の研究施設の充実度を実感しました。また、先生の話を聞くなかで、「環境と共生する化学」を学ぶ分野があることも知りました。これは、現在所属する総合工学科の共生応用化学コースを志望するきっかけにもなり、受験のモチベーションが上がりました。個人的には、先輩学生の雰囲気を知ることができたり、自宅通学の勘をつかめたりしたことも千葉大学をめざすうえで、安心材料になりました。

STUDENT’S VOICE 2
PROFILE
教育学部 中学校教員養成課程 1年
土井 剛斗さん千葉市立千葉高等学校出身

入学後の学びを体験することができ千葉大学志望の迷いがなくなった

高校の先生にすすめられて、「次世代才能スキップアップ」プログラムに参加しました。「基礎力養成講座」では、テクノロジーコースを受講。「ラジオを作る」という講座で、ものづくりの楽しさを実感できました。講座はすべて、生徒一人ひとりが自分で手を動かすことが重視されていて、研究者である大学の先生と密にコミュニケーションを取る機会があったのも印象的でした。その他、オシロスコープを使った音声信号の分析など、やや難度の高い実験にも挑戦。受験にあたり、千葉大学を志望したのは、面倒見のいい先生が多いことが決め手でした。また、理系を中心に10学部がある総合大学で、いろいろな仲間と知り合えることが入学前にわかったのもプログラムに参加したおかげだと思います。

STUDENT’S VOICE 3
PROFILE
国際教養学部 国際教養学科 1年
長谷部 真桜さん千葉県立千葉東高等学校

ASEANの留学生との交流を通じて知的好奇心がアジアにも広がった

高校2年次に「国際研究発表会」に参加し、ASEANの留学生や先生に向けて、ポスター発表に挑戦しました。これに先立ち、高校2年次の夏にオーストラリア留学を経験。現地で出会った人々に日本の印象をアンケートし、その結果を英語で発表しました。その後、「国際研究発表会」に計6回参加し、留学生の皆さんと交流をしました。千葉大学がスーパーグローバル大学であること、アジアの留学生がたくさんいることなどを知る絶好の機会になりました。これがきっかけとなり、私は千葉大学の国際教養学部に進学。現在は、在学生の立場で「国際研究発表会」をサポートしています。1年次の夏には、タイ・マヒドン大学への留学を経験し、その他のASEANの国々への興味も広がっています。「国際研究発表会」への参加が、こうした知的好奇心の原点になっています。

千葉大学

融合型教育・研究を推進する10学部を擁する国立総合大学

1949(昭和24)年設立。国際教養学部、文学部、法政経学部、教育学部、理学部、工学部、園芸学部、医学部、薬学部、看護学部の10学部を擁する国立の総合大学。学部や研究科の壁を超えた融合型教育・研究を推進。スーパーグローバル大学として、国際教育・交流にも力を入れている。