レポート

愛媛大学 Ehime University 大学の教養科目の早期履修や「課題研究」の指導を通して大学での“深い学び”の基盤を醸成

大学の教養科目を受講した高校生に単位を付与する制度など3つの柱で高大接続を積極的に推進する愛媛大学。大学教員が直接指導をする授業や課題研究活動によって、参加生徒の学習意欲向上に確かな成果が出てきている。高大接続プログラムは、大学での“深い学び”につながっているのか。実際に高校時代、プログラムに参加した経験を持つ大学生に詳しく話を聞いた。

社会が求める汎用的能力を高校生の時期から培う

愛媛大学のAP事業採択に至る取り組みは、今から10年以上前の2008年度から始まっていた。

同年、農学部附属農業高校を愛媛大学附属高校に改組したのを機に、課題発見・解決型学習を重視する高大接続の取り組みが本格化。高校段階で学習意欲や基礎学力を高め、大学での「深い学び」につなげるために、何ができるかを模索してきた。

2014年度のAP事業採択を受け、愛媛大学は高大接続推進室を設置。以下に説明する3つの柱で取り組みを進め、「幅広い教養と深い理解」「学び続ける意欲」「知の運用能力」などの養成に注力してきた。大学の取り組みを詳しく見ていこう。

高大の教員が連携して3つの柱で高校生を指導

①パイオニア・アドバンスト・プレイスメント(P―AP)プログラム

この取り組みは、高校生が大学入学前から科目等履修生として大学で幅広い分野の教養科目を学び、所定の成績を収めれば、同大学の単位が認定される制度。ほかの科目に興味・関心を広げたり、より高度な内容を学んだりする架け橋となることが期待されている。

P―APプログラムは、意欲と能力の高い高校生向けに大学の教育内容を先取りしたもので、現在のところ附属高校に加え、県内のSGH校、SSH校にも対象を広げ、大学教員による数学と英語の授業を行っている。

まず数学では、附属高校3年生の理系クラスを対象に、「数学Ⅲ」「数学活用」の授業を実施。高校の学習範囲に加え、集合やパラドクスなど、大学レベルの発展的な内容も扱っている。また、2016年度からは、同大学の授業として「数学入門」を開始。2018年度は3校の高校生が毎週同大学で授業を受けた。

英語では、共通教育科目「ことばの世界」を附属高校だけでなく、SGH校、SSH校の生徒も受講できるようにしている。「ことばの世界」は、大学のネイティブ教員が行うアクティブラーニング形式の英語の授業。10〜2月の放課後に全8回の授業を2サイクル実施している。英検2級程度の英語力を有し、学校長の推薦を受けた2年生以上が対象となる。こちらも正規科目の位置付けであるため、単位認定が受けられる。

さらに、附属高校の3年生向けには、愛媛大学に通って大学生とともに共通教育科目を受講する「リベラル・アーツ」の授業を設置。法学や経済学、化学など幅広い入門科目が用意され、その中から1科目を選んで受講することができる。成績判定基準に達すれば、高校・大学双方の単位を取得できる。

②ルーブリックを開発し「課題研究」を高度化 大学入試での活用も

愛媛大学では、附属高校の生徒を対象に、大学教員による「課題研究」の指導を実施。2015年度からは、研究内容のさらなる高度化を目指して、大学と高校の教員が協働して、課題研究評価のための愛媛大学版ルーブリックを作成し、活用を始めている。学内では、この経験を活かし、大学入試での多面的・総合的な評価のためのツールとしても、ルーブリックを活用することを検討している。

③高大一貫教育で汎用的能力を育てる ICT教材の開発

愛媛大学は、共通教育科目「日本語リテラシー」で用いている学習支援ツール「Moodle」を基に、高校生向けのeラーニング教材を附属高校の教員と連携して開発。これを活用して、附属高校の2年生を対象にタブレットを使ったICT学習を進めている。

「課題研究」で柑橘類の病原菌の新種を発見!


農学部 食料生産学科1年
宮内馨一朗さん 国立愛媛大学附属高等学校出身

2018年4月に、農学部食料生産学科に入学した宮内馨一朗さんは、附属高校で高大接続プログラムを受講してきた。高校1年次に、工学部が実施する「基礎科学実験」に参加し、クリーンエネルギーをテーマにした実験を経験。その後、高校3年次には、共通教育科目を受講する「リベラルアーツ」で、「生物学入門」を履修した。

「もともと愛媛大学の農学部進学を意識していましたが、生物学入門の授業を受けて、志望度が大きく高まりました。もともと生物学が好きだったので、受験勉強の向こうに果てしなく広がる専門的な世界を見て、絶対にここで学びたいと思ったんです。授業で印象に残っているのは、数年に一度しか花を咲かせない南米の植物の考察。謎が謎を呼ぶ授業に『もっと詳しく知りたい』という気持ちがうずきましたね」

宮内さんはその後の「課題研究」で、志望する農学部の先生の指導を受ける機会を得る。通ったのは「植物病理学」の研究室。「カンキツ黒病」という柑橘類の病気をテーマに、遺伝子解析などにも挑戦し、どんな菌が影響を与えているのかを詳しく調べた。

「遺伝子解析の結果、なんとカンキツ黒点病と関連する可能性のある菌の新種を発見しました。実験は細かい作業の繰り返しでしたが、成果が出たことで、大きな達成感を得ることができました」

これを機に愛媛大学農学部受験を決めた宮内さんは、推薦入試の面接で課題研究の成果をアピール。みごと農学部入学を実現した。

「やはり高校時代から授業や実験に参加したことで、学びのモチベーションが上がります。入学後も積極的に授業に参加する意識が自然に身についたと思います。農学部では、植物病理学の知識をさらに深めて、地元の農業を支えられるような研究成果を上げたいです」

フィールドワークで学びのテーマが明確に


社会共創学部 地域資源マネジメント学科1年
岡本奈緒子さん 国立愛媛大学附属高等学校出身

社会共創学部地域資源マネジメント学科で学ぶ岡本奈緒子さんも愛媛大学附属高校で、高大接続プログラムを受け、愛媛大学への進学を決めた。前出の宮内さんが理系だったのに対し、岡本さんは文系。言語系の授業体験が印象に残っているという。まず、高校2年次に受講したのが、「日本語リテラシー」の授業。学習支援ツール「Moodle」を用いて課題の提出を行った。

「オンラインの課題提出を入学前にできたのは、貴重な経験になりました。大学の先進的な学びの手法を理解できたことで、入学後も落ち着いて授業をスタートできました」

同じく高校2年次に、岡本さんは、「ことばの世界」も受講。定員30名という少人数制の英語の授業で、大学らしい主体的に学び取る授業を体験した。

「大学のネイティブの先生が担当するグループワーク中心の英語オンリーの授業でした。ここで私は、英語を使ったロールプレイやプレゼンテーションに挑戦。ネイティブらしい言い回しなどを細かく学ぶことができました。この授業は県内のSGH校の生徒も参加していて、なかには帰国子女の子も。英語は得意科目でしたが、上には上がいる……と大いに刺激を受けましたね」

続いて、高校3年次には「課題研究」で社会共創学部の先生の指導を受けることに。テーマは、「地域活性化」。地元・松山の「道後温泉」の観光資源をどう活用すべきかについてフィールドワークを行った。

「まちづくりや都市計画を専門とする先生の指導を受け、研究室の先輩学生と一緒に道後温泉の方に向けたプレゼンテーションも行いました。フィールドワークの方法、観察眼、課題解決の手順などを細かくアドバイスしてもらい、大学の研究はレベルが違うことを実感しました」

「課題研究」によって、大学入学後の学びのテーマが明確になった岡本さん。高大接続プログラムによって、社会共創学部への進学を迷いなく決めることができた。

「『課題研究』の期間は、週1で愛媛大学に通っていたので、先生と顔見知りになることができ、推薦入試の面接でも緊張することなく自己アピールができました」

成果を検証し、さらに効果的な取り組みを模索

今後は、入学者アンケートや追跡調査を行い、一連の取り組みが大学での学びの高度化に結びついているのか、成果と課題を明らかにしていく。さらに、附属高校との高大接続の成果をより多くの高校との連携につなげていく必要もある。高大接続の連携を愛媛県内、そして全国の高校へと広げ、入試制度の改革、入学者のレベルアップにつなげていくのが今後の目標。愛媛大学の挑戦はまだまだ続く。

INFORMATION

平成31年4月に理学部・工学部が改組

刻々と変化する産業構造や地域産業のニーズに対応し、時代のニーズに合った理工系人材を育成するため、平成31年4月に理学部・工学部を改組します。理学部は、現在の5学科体制から、分野横断機能とキャリア形成機能を強化した1学科5コースによる教育体制に、また工学部は、6学科体制から、工学基礎教育を重視した幅広い知識が習得できる柔軟性のあるカリキュラム設計が可能となる1学科9コース体制に改組します。

愛媛大学

2019年に開学70周年を迎える「地域とともに輝く大学」

1949(昭和24)年創立。法文学部、教育学部、社会共創学部、理学部、医学部、工学部、農学部の7 学部と大学院6研究科を擁する国立の総合大学。 2019年に開学70周年を迎えるにあたり、「学生中心の大学」「地域とともに輝く大学」「世界とつながる大学」を目標にさらなる教育改革を推進している。