レポート

三重県立看護大学 Mie Prefectural College of Nursing 地域医療の人材確保のため 看護職への理解を深める 多彩な取り組みを実施

「日英中トライリンガル育成のための高大接続」でAP事業の採択を受けた杏林大学では、グローバル人材育成に積極的に取り組む高校との連携を深め、「アドバンストプレイスメント」、「日英中トライリンガルキャンプ」など、高校生に多様な学びの機会を提供している。また、高大接続事業で連携する高校と大学教職員の意見交換の場として、「杏林APラウンドテーブル」も定期的に実施している。

高校生も気軽に参加できるグローバル教育の場を提供

杏林大学では、2014年度のAP事業採択を受け、「日英中トライリンガル育成のための高大接続」に取り組んできた。

これは、「グローバル人材育成」という教育目標を共有する高等学校と教育内容、教育方法、教育成果などの発展的な連携を推進することを目的としている。

これに先立つ2012年度にも文部科学省「グローバル人材育成推進事業」の採択を受け、「世界で活躍するスマートでタフな日中英トライリンガル人材の育成」に取り組んできた杏林大学。日本語・英語・中国語の3か国語を駆使して、「責任ある仕事を推進できるレベルの語学力」の獲得を目標に、英語・中国語の実践的教育プログラムを独自に開発し、ネイティブ教員による少人数制の指導を行ってきた。

今回のAP事業採択は、これまでのグローバル教育の蓄積が評価されたもの。大学ならではの高度な教育環境を生かして、高校生にグローバル意識を涵養し、語学力向上や異文化理解を促すさまざまな取り組みが行われている。

大学の教育資源を活かし多様な「接続」を展開

杏林大学の高大接続事業は、SGH指定校やグローバル人材育成に積極的に取り組む高校と連携して進められている。高校生が参加できるプログラムを紹介していこう。

日英中トライリンガルキャンプ

提携高校の1・2年生、杏林大学の在学生、留学生らが参加する「日英中トライリンガルキャンプ」を毎年実施。英語圏留学経験者、中国からの留学生らが組織するピアチューターとの協働により、英語と中国語によるプレゼンテーションなどのアクティビティを行い、英語・中国語を学ぶことの重要性を認識するとともに、異文化理解を深めることを目的としている。2018年3月に実施した1泊2日の同キャンプには、高校生30名、杏林大学在学生7名、留学生3名が参加。年齢の近いネイティブスピーカーが参加したことで、より活発なコミュニケーションが行われた。

ほかにも、英語キャンプや中国語研修、英語プレゼンテーションコンテスト、中国語カラオケ大会など多数のプログラムが実施された。

アドバンストプレイスメント

2017年度から大学の正規科目で高校生の履修を受け入れ、修了した場合、入学後にその単位を認定する「アドバンストプレイスメント(AP)」を実施。高校生のうちから大学の学びに触れ、意欲を高めてもらうことが狙いだ。ユニークなのは、杏林大学への入学を志望する高校生だけが対象ではないこと。桜美林大学、共愛学園前橋国際大学、創価大学と「アドバンストプレイスメントによる大学間単位互換協定」を締結し、APで取得した単位を協定大学ならどこでも認定してもらえる環境を整えた。この制度の構築に尽力してきたポール・スノードン国際交流センター長はこう語る。

「2018年度は、夏季集中講義なども含め、99名の高校生がAPを受講し、123単位を認定しました。今後は、協定校の拡大にも力を入れていきたい。また、遠方の高校生も履修できるようにオンライン授業などの導入も考えたい」

ライティングセンター

杏林大学のグローバル教育の拠点のひとつに「ライティングセンター」がある。ここでは、特任講師や学生ピアチューターから外国語の文章作成の添削指導を受けることができる。課題添削や留学希望者を中心に毎年400人以上の在学生が利用するこのセンターでは、AP事業の一環として、高校生が英語・中国語の指導を受けられる「ライティングセミナー」を実施している。参加者は、特任講師やピアチューターから直接ライティングに関する具体的な指導・アドバイスを受けながら、大学の学びを体感し、将来の留学や国際交流に向けたモチベーションを高めることができる。また、「同時通訳ブース」など、高校にはなかなかない言語習得のための特別な施設を体験することもできる。

「ライティングセミナーでは、入試を想定した英作文の課題などに挑戦してもらい、添削指導を行います。また、高校の先生の意見を反映して、英検対策の指導などもしています。指導を担当する学生ピアチューターのほとんどは、高い語学力に加え、留学経験もあるので、自分の体験から留学の意義や現地での学び方などを高校生にアドバイスできます」(ジェイソン・サマービル特任講師)


ポール・スノードン国際交流センター長


ライティングセンターのジェイソン・サマービル特任講師

ルーブリックの入試での利用

杏林大学では、AP事業の一連の取り組みで、高校生がどのように成長したのかを評価するためのルーブリックを作成。これは、学力の3要素のひとつである「主体性を持ち多様な人々と協働し学習する態度」を評価するもの。自らの多面的能力(主体性、多様性、協働性、課題発見・解決力)を高校時代に力を入れた経験に照らし合わせて評価する。さらに言語運用能力も独自に設定した能力指標を基準に、5段階で自己評価させる。2018年度・2019年度には、このルーブリックを外国語学部のAO入試の選考でも活用した。

杏林APラウンドテーブル

グローバル人材育成に力を入れる高校と大学の教職員が集まり、互いの教育目標、教育内容、教育方法などについて話し合う場を年3回設けている。2014年度に実施した第1回には4校だった参加高校は、2018年度には、17 校に増加。連携する高校からの注目度の高さがうかがえる。高校からは、校長、副校長、進路指導担当教員らが参加。グローバル教育に関する情報共有に加え、入試方式や連携プログラムへの要望も多数寄せられる。杏林大学では、ここで得た知見を「高校と大学をつなぐFD/SD」など、大学教職員の研修にも役立てている。

言語や文化の差異を超え共に学ぶ場を提供したい

杏林大学では、母語である日本語に加え、英語・中国語を操るトライリンガルになることが、グローバル社会でより多くの人とコミュニケーションをする上でいかに有益であるかという大学のグローバル人材育成の共通認識を高校生に普及し、グローバル人材になる志を持った若者の成長を促進してきた。「日英中トライリンガルキャンプ」や「ライティングセンター」での活動を継続し、今後も高校生が学校や学年の枠を超えて、英語・中国語・日本語の重要性を実体験する機会を提供していく。

また、「アドバンストプレイスメント」も単位互換協定をさらに拡大し、継続していく。協定大学をさらに増やし、高校生にとってより魅力的な環境を模索していく。例えば、学期中の継続的な受講が難しい生徒を対象に、夏季・春季の休暇を利用した集中科目を設置し、受講の可能性を広げていくことも検討している。

「日本の大学は、もっと世界に、地域に開かれていくべきです。大学生、留学生、高校生、さらには地域の人たちが言語や文化の差異を超えて共に学ぶ場になることが、杏林大学の使命だと考えています」(ポール・スノードン国際交流センター長)

STUDENT’S VOICE 1
PROFILE
外国語学部 英語学科1年
渡邉 悠生さん私立大成高等学校出身

実際のキャンパスで在学生と一緒に学べる貴重なチャンス

高校2年次の夏休み後に、担任の先生にすすめられて、杏林大学の「アドバンストプレイスメント(AP)」に応募しました。それまで大学の授業など想像もつかず、漠然とした不安を抱えていたので、試しに受けてみようという感覚で参加しました。高校3年次の前期には、外国語学部の金田一秀穂先生が担当する「言葉と社会」という授業を履修。「正解はない」という多様な考え方を学ぶ大学の授業スタイルに衝撃を受けました。また、テレビでも活躍する先生が目の前で授業をしていることにも感動しました。実際のキャンパスで、実際の在学生と一緒に学べるチャンスは、なかなかないと思います。入学後のギャップをなくすためにも本当の大学の姿を知るこうした機会を多くの人に知ってほしいと思います。

STUDENT’S VOICE 2
PROFILE
外国語学部 英語学科4年
荻原 麻由さん(左)
外国語学部 観光交流文化学科1年
岡林 平さん(右)

ピアチューターの活動を通して自分たちも成長しています!

ライティングセンターのピアチューターとして、ライティングセミナーのサポートを担当しています。私は小学校時代をアメリカで過ごし、その後、ノルウェーでも英語を使って学んだ経験があります。ライティングセミナーでは、参加している高校生の英作文を添削しながら、海外で学ぶことの楽しさを伝えています。(荻原さん)

私は、小学校4年生から中学2年生まで、オーストラリアで生活していました。英文を添削する際は、「自分で考えてもらうこと」を重視しています。これは、オーストラリアで自分が学んだスタイルでもあります。本当に使える英語を高校生に身につけてもらうために試行錯誤しながら、自分自身も多くのことを学んでいます。(岡林さん)

INFORMATION

高大接続イベント予定(2019年度)

5月 杏林APラウンドテーブル
  高校と大学をつなぐFD/SD
6月 ライティングセミナー(高校向け)
7月 グローバルAPセミナー
8月 夏季集中 アドバンストプレイスメント
  英語キャンプ、中国語研修
  大学教養レベル集中講座
10月 プレゼンコンテスト(英語・中国語)
11月 杏林APラウンドテーブル、ライティングセミナー(高校生向け)
3月 日英中トライリンガルキャンプ

杏林大学

医療系、グローバル系を含む4学部で先進的な教育を展開

1966(昭和41)年創立。医学部、保健学部、総合政策学部、外国語学部の4学部を擁する。創立50周年を迎えた2016年度に、三鷹キャンパス近くに新設した井の頭キャンパスに、八王子キャンパスにあったすべての学部・大学院を移転。医療、看護、グローバルと時代のニーズに応える先進的な教育を展開している。