レポート

AP事業の採択を受け、入試改革に取り組むお茶の水女子大学では、それまでのAO入試を大きく変革した「新フンボルト入試」を実施。高大接続の要素を持つプレゼミナールを第一次選考とし、第二次選考では文系諸学科を志望する学生に「図書館入試」を、理系諸学科を志望する学生には「実験室入試」を課すことでその成果やプロセスを評価している。知識をいかに「活用」し「応用」できるかという潜在的な力を見極める入試方法だ。
時間と手間をかけて受験者の資質と能力を見極める
お茶の水女子大学では、AP事業 の採択を受け、それまで実施してきた特別入試、特にAO入試を抜本的に改革した「新フンボルト入試」を導入した。これは、多面的・総合的 に志願者の意欲、適性、能力、基礎学力を見極める新しい入試方法を模索する試みである。旧AOで10名だった定員を倍の20名とし、平成29年度入試から3年にわたって実施してきた。大学入学時に知的ピークを迎える学生ではなく、入学後の学修のなかで能力を大きく伸ばし、大学院に進学し社会に出てからさらにリーダーとして飛躍しうるような「伸びしろ」のある学生を選抜することを目的としている。
具体的には、高大接続の要素を持つプレゼミナールおよびユニークで丁寧な第二次選考(図書館入試、実験室入試)を通じて、基礎学力を担保しつつ受験者のもつ潜在力(ポテンシャル)を見極める。さらに、本事業を入試改革の第一歩と位置づけ、将来的には入試制度全体への改革へと広げると同時に、特色ある教育システムと連動させて学士課程教育改革を加速させることも狙いのひとつだ。
自由度の高いユニークな入試方法で研究力の資質を探る
「新フンボルト入試」では第一次選考のプレゼミナールに始まり、文系・理系に分かれた第二次選考、そして入学前教育・追跡調査が行われる。それぞれの具体的な実施内容は以下のとおりだ。

プレゼミナール
第二次選考に先立ち第一次選考を 兼ねて9月下旬の土日に開催され る。お茶の水女子大学の専門研究分野から10を超えるセミナーが開講され、「新フンボルト入試」受験者にはセミナーの受講とレポート作成が課せられる。ここでは受動的に講義を受けるだけでなく、自ら深く考える場が提供される。さらに「大学という学問世界」を実体験することで 受験者に将来への明確なヴィジョン、お茶の水女子大学への強い志望、そして知的な興味を持ってもらうものであり、受験者にとって入試の機会であると同時に今後の勉学に有益な体験の場(教育の機会)となることを企図している。
しかも、プレゼミナールでは受験者のみならず、高校2、3年生の参加も自由とする。大学の授業を直に体験してもらう機会とし、高大接続の試み(祖型)としても機能する。過去3年のプレゼミナールには、受験者にほぼ匹敵する非受験者の参加がえられた。平成30年9月のプレゼミナールにおいて実施されたアンケート(図1)では、「セミナーは今後の学修を進めるうえで有意義なものだった」という問いに対し、「とてもそう思う」と回答した学生は 89%、「どちらかといえばそう思う」は10%であり、受験者・非受験者ともに高評価であった。このような学生の高い満足度から、入試改革に留まらず高大接続の試みとしての成果がうかがえる。


図書館入試と実験室入試
第二次選考では、本人の到達した結論だけでなく、試行のプロセスも重視し、本人の有する総合的能力 (ポテンシャル)を測定することを目的とした「図書館入試」と「実験室入試」を実施。
「図書館入試」は文系志望者を対象とし、大学附属図書館を舞台に所蔵資料を自由に活用しつつレポートを長時間かけて書き上げるという試験内容だ。ここでは情報検索力と自ら の考えを論理的にまとめる能力が試される。また、2日目にはグループ 討論と個別面接が課される。
理系志望者は、各学科の学問の特性に応じて、学科毎に課題を設定した「実験室入試」を受験する。大学での研究を進めていくうえでの資質 (課題発見力、探究力等)が備わっているかどうかを学科独自の工夫した課題を通して判定する入試であり、一部の学科では高校での自主課題研究のポスター発表を選考の中核に据えている。
これらの第二次選考も、プレゼミナールと同様に今後に活きる何かを学び取り持ち帰ってもらう入試、合否にかかわらず受験者自身の今後の学習に意味を持つような入試を目指すものである。
丁寧な入学前教育と追跡調査
合格発表後には合格者に対する研修会を実施。入学までの約半年を有意義に過ごせるように指導を行う。また、合格者全員に上級生をチューターとして配置し、手厚いケアを行う。具体的には、推薦図書の提示や、e-learningのシステムを利用した英語自主学習環境の提供により、入学までの基礎学力涵養と専門領域への志望動機の深化を図る。
また、大学入学後の合格者の学修状況を恒常的に質・量の両面から長期的に分析・評価していくシステムを構築し、「新フンボルト入試」の成果を検証していく。
推薦入試・一般入試へとつながる成果
「新フンボルト入試」で不合格となった学生が、再度推薦入試・一般入試に挑み、入学する例も多数みられる。これは、新型AO入試の試みが受験者にとって一時的なものではなく、その後の推薦入試や一般入試のモチベーションに波及しているひとつの成果だといえる。例えば、平成30年度入試ではAO入試志願者 192名のうち、最終的に57名が合格。うち36名は、推薦入試、一般入試での合格者である。
「このように、お茶の水女子大学を志望する学生にとって、『新フンボルト入試』の試みがよい波及効果となればうれしいですね」(入試推進室長・安成英樹教授)
新型AO入試の制度維持と改善に向けて
これまでに例のない、新しいAO入試の仕組みを創出することを主眼としてきたお茶の水女子大学。過去に「新フンボルト入試」を3回にわたって実施し、受験者を高い水準で 確保してきたこと(受験倍率は3年 連続で9~10倍)、また、志願者とほぼ同数の非AO受験者(高校2年生が主)がプレゼミナールを受講していることから、この入試改革の試みが高校生にとって魅力的に映っていることが示されている。
今後の目標は、この新型AO入試の制度的な定着とさらなる改善を図ること。直近の課題として、AP事業経費が終了した後も、継続して実施していく方法を確立することが挙げられるが、可能な範囲での効率化、省力化を図りつつ、制度の理念を維持していくことを重要視し、すでに必要な人員の確保、自前の経費で維持するための検討が進められている。
また、この新入試で合格した学生に対する細やかな追跡調査、ヒアリングを実施し、その学修過程、成績等を分析することで、本事業の成果を継続的に検証しつつ、その成果を発信していく予定である。
一方で、これまでも実施してきた高校側からの意見聴取を引き続き実施し、制度のブラッシュアップを図る。また、プレゼミナール全受講者及び図書館入試受験者への悉皆的なアンケート調査を継続して実施し、ステークホルダーの意見を敏感に制度改善に活用していく。このアンケートでは、プレゼミナールのセミナーが「面白かった」「今後の学修に役立つ」という回答が圧倒的多数を占めている。この満足度を今後も維持していくことがもっとも肝要であると考えている。
さらに事業最終年度にあたる平成31年度には、本事業の成果を社会に公表するさまざまな取組を展開し、成果発表のためのシンポジウムを企画。他方で、新フンボルト入試で得られた成果を推薦入試等の特別入試、あるいは一般入試へと応用し、お茶の水女子大学の入試制度のさらなる改善を進めていく。

大学の授業を体験できる入試制度で入学への思いを再確認
高校生の頃から、お茶の水女子大学で研究を行いたいと考えていました。「新フンボルト入試」を知り、それまで取り組んでいた課題研究をアピールすることができると思い受験を決めました。
1次試験を兼ねたプレゼミナールでは、希望する理学部生物学科のセミナーを受講。高校の授業とはまったく異なり、専門的な実験器具を扱い、学生同士で主体的に実験を行うのが印象的でした。授業の進め方や先生の雰囲気を実体験し、ここで学びたいという思いを再確認。入試後には、不合格だったとしても推薦・一般入試で再チャレンジしたいと志望度が強まったのを覚えています。
現在は、入学前から興味を持っていた海藻の一種「カサノリ」の研究に取り組んでいます。この研究で、在学中に成果を出すことが私の目標です。

受験の準備段階から入学までの間に大学で必要とされる思考力が磨かれた
高校の恩師だった先生が、お茶の水女子大学の「新フンボルト入試」の存在を教えてくれたのが受験のきっかけでした。受験を決めてからは、二次試験の「図書館入試」に向けた受験勉強を開始。社会問題を取り上げた新聞記事を読み、その記事の切り抜きでノートを作成しました。高校の先生と記事についての議論を交わしながら、多角的に物事を捉える力を身に付けることができました。
合格発表後には、サポーターの先輩と1対1で課題図書を読み、レポートを作成する機会をいただきました。大学で学ぶ先輩からの指摘を受け、自分の考えを深めることができた貴重な経験だったと思います。「新フンボルト入試」を経験したことで、受験勉強を始めてから実際に大学で学び始めるまでの間、勉学への高いモチベーションを保つことができたと感じています。
お茶の水女子大学
少人数制の専門教育と領域横断的な学びで女性リーダーを育成
1875(明治8)年、女性のための日本初の高等教育機関「東京女子師範学校」として創設。少人数制による高度な専門教育が特長。グローバル化する社会的要請に対応し、「21世紀型文理融合リベラルアーツ」を設け人文科学・社会科学・自然科学の領域から多角的な学びを実施。国際社会で活躍できる女性リーダーを養成する。