レポート

追手門学院大学では、「選抜型」から「育成型」入試への転換を掲げ、2014年度から「アサーティブ入試」とその導入となる「アサーティブプログラム」を実施している。「アサーティブ」とは、「自分自身を知るとともに、相手の意見を聞き、考えを適切に主張できる態度」という意味を込めたもの。大学で学ぶ意味を考え、学ぶ意欲と姿勢を持った受験生に門戸を開くことを目的とし、受験前から「学ぶことについて考える」および「アイデンティティの形成」の機会を提供している。
「この大学で学びたい!」 意欲の高い学生を増やす
大阪府にある私立・追手門学院大学は、独自に準備してきた「アサーティブ入試」とその前段階にあたる「アサーティブプログラム」を全学的に展開するため、AP事業に応募し、採択を受けた。
同大学では、「アサーティブ」という言葉を「自分自身を知るとともに、相手の意見を聞き、考えを適切に主張できる態度」と位置づけている。これは、大学で学ぶ意味を考え、学ぶ意欲と姿勢を持った学生のモデルだと考えていいだろう。
2013年、追手門学院大学の入試改革は、当時入学センター職員だった、現教務部アサーティブ課の志村知美課長が、学生に大学を選んだ理由を聞くところから始まった。どうすれば受験生に選ばれる大学になるのか。そのヒントを得るために在学生の生の声をヒアリングした。
「めざしたのは、とにかく目の前の学生が求めている入試を形にすることでした。調査を進めるとわかったのは、第1志望の受験に失敗した不本意入学者が多かったこと。自己肯定感が低く、それが大学生活に意欲的になれない原因でした。大学で何をしたいのか、そもそも自分は何が好きなのか……そんな当たり前のことを考えてから進学できる入試の必要性を感じたのです」(志村課長)
志願者そのものは、入試の方式や回数を工夫すれば増えるかもしれない。しかし、「この大学で学びたい。ここで自分を成長させたい」という意欲を持って入学しなければ、学生自身の成長につながらないのは明らかだ。そこでスタートしたのが、「アサーティブプログラム」と「アサーティブ入試」だった。
「入試は高校と大学をつなぐ重要な接点です。これを教育の一環と位置づけて、『選抜型』入試から『育成型』入試への転換を図ろうと考えました。まず、『アサーティブプログラム』で、大学職員が生徒との面談等を通して、大学で学ぶ目的や意欲を育成。その後、『アサーティブ入試』で、本当に学ぶ意欲があるのか、目的は明確か、基礎学力や議論する力は身についているのか、といった観点で選抜を行います。これは、日本では初めての入試形態でした」(志村課長)

高校生と職員が一緒に大学で学ぶ意味を考える
「アサーティブプログラム」の対象は、全学年の高校生。オープンキャンパスでの同時開催、個別開催を含め、毎年20回以上実施している。
まず、「アサーティブガイダンス」で、プログラムと入試の概要を説明。続いて、職員による個別面談を行い、高校生の声を受け止める。ユニークなのは、追手門学院大学を志望しない学生もプログラムを受講できること。将来の進路がまったくわからないという生徒には、職員が社会人の先輩として、「なぜ大学に行くのか」「大学で何をしたいのか」を聞き、一緒に考える。個別面談は、複数回受けられるため、開催の度に訪れる生徒も少なくないという。
「保護者にも高校教員にも将来のことを相談できずにいる高校生は数多く存在します。そこに、いい意味で“部外者”である大学職員が相談に乗ることで、すっと心に寄り添うことができるのです。面談の目的は、本学に進学してもらうことでは決してありません。明確な目的がある生徒には、『その分野であれば、この大学も見学したほうがいい』と多様な視点を提示しています」(志村課長)
プログラムに参加した生徒が進路についての考えや気づきを書き留めるために工夫しているのが、「アサーティブノート」の配布だ。これは、メモを取ること、自分の考えを伝えることなどについて、立ち止まって考えるためのノート。生徒たちは、ノートの内容に促されながら、自己を振り返り、成長を実感することができる構成になっている。一方、面談を担当した職員は、生徒の成長をコンタクトシートに記録していく。
さらに、大学で学ぶために必要な基礎学力育成支援のため、インターネットを使った学習システム「MANABOSS(マナボス)」を独自開発し、受講生に提供している。ここで受講生たちは、国語や数学の学習を通じて、基礎学力を高めることができる。同システムを活用した「追手門学院バカロレア」では、正解がひとつではない問題に対して、SNS上で参加者同士が議論することで、他者の意見を受け入れて、自身の意見を発信する力を養成している。
「『アサーティブプログラム』は、大学の学びに向けて準備をする助走期間。ここでの学習を支える『MANABOSS』の開発に注力できたのは、AP事業採択による大きな成果だと考えています」(志村課長)
グループディスカッション、個別面接で学習意欲を評価
このようにして育てた「学ぶ力」「学ぶ意欲」を測るのが、「アサーティブプログラム」受講生のみが受験できる「アサーティブ入試」となる。
ここでは、グループディスカッション、基礎学力適性検査、個別面接で思考力や主体性、基礎学力、学習意欲などを総合的に判断し、合否を決定する。さらに、合格者には入学前教育を課し、そこでも大学で学ぶ意識を高めていく。
「アサーティブ入試」で求める受験生は、「今は確かな希望や理念がなくとも、知的な事柄への興味や活動を通じ、何のために学ぶのかを問い続け、努力する人」。受験時に大学で学びたいことが明確にはなくても入学後にさまざまな活動をしながら考えればよいとしている。
「『アサーティブ入試』は、追手門学院大学でやりたいことを見つけたいと強く思っている高校生に入学してもらうためにあります。主体的に学びたい、もっと成長したいと思う学生が増えることが、大学全体の活性化につながると考えています」(志村課長)
自分のことを話して将来像がまとまった
経営学部 マーケティング学科2年 藤村武瑠さん 京都府立峰山高等学校出身
「アサーティブ入試」を利用して入学した先輩学生たちは、どのような大学生活を送っているのだろうか。経営学部マーケティング学科2年の藤村武瑠さんは、「アサーティブ入試」の3期生にあたる。もともとマーケティングの分野に興味があり、インターネットなどで調べるなかで、追手門学院大学にたどり着いた。
「高校時代は美容師をめざしていました。理由は、尊敬できる美容師の先輩がいたから。ただ、その人から『もっと職業の枠にとらわれずに興味の幅を拡げて、将来の可能性を広げた方がいい』とアドバイスを受け、アパレル業界などにも視野を広げていたところに、マーケティングや商品開発の仕事を知りました。その学びの受け皿として、大学を調べるなかで、追手門学院大学の『アサーティブプログラム』を知りました」
個別面談では、将来やりたいことについて徹底的に深掘りされた。そのなかで、美容業界、アパレル業界などを基点として、自ら会社をつくり、新しいものを発信したいという将来像が見えてきた。
「自分のことを話すなかで、将来に対する考えがまとまっていくのを実感しました。『アサーティブ入試』の面接でも、将来は起業して、自分の興味のあるものを世の中に発信したい。そのためにマーケティングや心理学、社会学などを学びたいと伝えました。自分の意志で大学や学部を選んだことで、入学後も疑問なく積極的に学ぶことができています」
入学後は、学部横断型の「追手門学院大学リーダー養成コース」を履修。将来の起業に向けて、学部や学年の枠を超えてネットワークを拡げながら、学んでいるという。
大学職員の対応から手厚いサポートを実感
社会学部 社会学科2年 田畑慎太朗さん 私立大阪体育大学浪商高等学校出身
社会学部社会学科2年の田畑慎太朗さんも藤村さんと同期の「アサーティブ入試」3期生。彼が追手門学院大学をめざしたきっかけもかなりユニークだ。
もともと「釣り」が大好きだった田畑さん。憧れの釣り具メーカーに就職するために、社員の出身大学を調べていたところ、追手門学院大学の名前を見つけ、オープンキャンパスで、「アサーティブプログラム」のことを知った。まず、「アサーティブガイダンス」に参加し、入試の概要を知ると「これは自分のためのものだ」と直感。そのまま個別面談に参加し、釣りが好きであること、将来は釣り具メーカーで働きたいことなどを職員に話したという。「面談のなかで、追手門学院大学の就職サポートが手厚いことを知りました。外来魚の研究や少子高齢化の問題に興味があると話したところ、現在所属する社会学部の学びについても丁寧に教えてもらい、アットホームな学風を実感できました。『アサーティブ入試』の面接でも、釣りに関わる仕事をしたいことをアピール。将来やりたいことを再確認できただけでなく、大学の先生や職員の方に将来のことを知ってもらったうえで入学できる安心感がありました」
2年次が修了し、所属ゼミも決まった。興味があった「少子高齢化」をキーワードに、出身地である大阪府岸和田市の「岸和田だんじり祭と地域」が抱える課題について研究するつもりだという。もちろん、就職に向けて、在学中に釣り具メーカーとの接点も模索中だ。
入試改革と教育改革をセットで進めていきたい
「アサーティブプログラム」は、職員の意識改革にも好影響を与えている。現在では、個別面談に全職員の6割にあたる60名が参加。高校生と直接話すことで、学生の実像を把握し、学生支援のあり方を考えるいい機会にもなっている。さらに、部署を超えた職員の連携を構築する場にもなりつつあるという。
2018年度の「アサーティブプログラム」の個別面談参加者は、1205名。そのうち志願者数は514名、入学者数は114名となる。さらに、「アサーティブプログラム」に参加し、一般入試など別の形態で入学した学生を合わせるとその数はさらに増えるという。
今後の課題は、「アサーティブプログラム」で育んだ学生の意欲を入学後に発揮できるように支援すること。それに応える質の高い授業を提供していくことも重要になる。
「『アサーティブ入試』の第1期生が卒業年度を迎え、心配していた就職実績もかなり好調です。特に、入試段階でディスカッションを経験し、自分の意見を発信する訓練をした実績が、就職活動で優位に立つことにつながっているようです。こうした先輩のロールモデルを数多く見せることが今後も重要になるでしょう」
AP事業採択をきっかけに、学習成果を可視化し、学生の成長をデータで共有する学内システムの構築も進んでいる。入試改革が教育改革に波及し、全学レベルでの質の高い教育の探究が進んでいる。
追手門学院大学
「独立自彊・社会有為」を理念とし社会のリーダーを育成
1966(昭和41)年創立。経済学部、経営学部、地域創造学部、社会学部、心理学部、国際教養学部の6学部を擁する大阪府の私立大学。「独立自彊・社会有為(どくりつじきょう・しゃかいゆうい)」を教育理念として掲げ、こども園から大学・大学院までの総合学園として、地域および国際社会で、指導的役割を果たせる人間の育成をめざしている。